路地裏商店 珍品堂 にようこそ

相場の裏路地で珍品(主に負け方)を並べる店主が、閉店後にAIと語り明かす内省と相場哲学の記録

正しい負け方

Barダニエルズ|正しい負け方

今日もBarダニエルズではいつものメンバーが

カウンターで会話を繰り広げていた。

 

ジェニー
「ねぇねぇ正しい負け方ってなんだとおもう?」

「例えば……早めに損切りをちゃんとするとか?」
 
SFT
「違う。」
 
ジェニー
「じゃあ損小利大?」
 
SFT
「今日はそれでもない。」
 
ジーク
「なんだそりゃ。負けに正しいも間違いもあるのかよ。ギャハハハハ!!」
 
SFT
「ある。」
 
ジーク
「ほう?」
 
SFT
「あとで調べられる形で負ける。」
 
ジェニー
「……調べられる?」
 
SFT
「そう。」

100回負けても、同じ100回じゃない

SFT
「例えば同じルールで100回トレードしたとするだろ。」
 
「でも、ある日は予定通り損切り。」
 
「ある日は怖くなって早切り。」
 
「ある日は戻りそうだから損切りを延期。」
 
「ある日はナンピン。」
 
「連敗した日は取り返したくなってロットを増やした。」
 
「勝って気が大きくなった日は、予定より利を伸ばした。」
 
ジェニー
「一応、全部記録には残ってるんでしょ?」
 
SFT
「残ってる。」
 
「でも、それを100件の同じトレードとして並べていいのかって話。」
 
アイ
『厳密には「母集団を揃える」というより、比較可能な標本を得るために、標本を生み出す条件をなるべく統一する、という表現が近いでしょう。』
 
ジェニー
「記録してるだけじゃダメなの?」
 
SFT
「記録した“もの”が毎回違ったら、比較しづらいだろ。」
 
「昨日はSL5%。」
 
「今日は戻りそうだから8%。」
 
「明日は怖くなったから2%。」
 
「その次はナンピンして建値撤退。」
 
「それで『この手法の損切りってどうなんだろう?』って検証しても、何を検証してるのか分からなくなる。」
 
ジーク
「ギャハハハハ!! 毎日違う商品作っといて、今月の不良率を調べてるようなもんか!!」
 
SFT
「そういうこと。」

感情パイセン、工程に入る

感情パイセン
「いやいやいや。」
 
SFT
「出たな。」
 
感情パイセン
「今回は戻りそうだなーって思ったら、ちょっと待つくらいいいだろ?」
 
「昨日と今日じゃ相場も違うんだしよ。」
 
SFT
「それ自体が戦略として定義されてるならな。」
 
感情パイセン
「ほら。」
 
SFT
「でもお前の場合、その場で気分によって変えようとしてるだろ。」
 
感情パイセン
「気分じゃねえよ。フィーリング。」
 
ジーク
「同じだろ!! ギャハハハハ!!」
 
感情パイセン
「だって損切りした直後に戻ったらムカつくじゃん。」
 
SFT
「ムカついていいんだよ。」
 
感情パイセン
「え?」
 
SFT
「感情は好きに出ろ。」
 
「ただ、注文を変えるな。」
 
感情パイセン
「俺、そんなに邪魔?」
 
アイ
『標本作成という観点では、かなり。』
 
感情パイセン
「はえぇよ。即答すんなよ。」

まさかの品質管理

SFT
「……って話してて、今日ふと思い出したんだけどさ。」
 
ジェニー
「なに?」
 
SFT
「俺、最初に就職した会社でやってた仕事、生産・品質管理だったわ。」
 
少し間が空いた。
 
ジーク
「…………。」
 
SFT
「なんだよ。」
 
ジーク
「ギャハハハハハハ!!」
 
SFT
「笑うな。」
 
ジーク
「お前、相場に来てまで品質管理してんじゃねえか!!」
 
ジェニー
「言われてみれば……。」
 
SFT
「いや、別にそれが今の考え方の原因だとまでは言わんけどな。」
 
アイ
『因果関係は確認できません。ただし、考え方の類似性はあります。』
 
たしカニ
「確かに、標準工程、工程逸脱、不良原因の切り分け、再発防止……似ていますね。」
 
SFT
「お前、妙に馴染むな。」
 
たしカニ
「品質は大事です。」
 
ジーク
「カニが品質管理語ってんぞ!!」

正常負けという標本

SFT
「例えばさ。」
 
「決めた条件で入った。」
 
「決めたロットだった。」
 
「決めた損切りだった。」
 
「途中で余計な変更もしなかった。」
 
「で、負けた。」
 
ジェニー
「普通に嫌だね。」
 
SFT
「嫌だよ。」
 
「でも、その負けには意味がある。」
 
「『この条件で、このルールをそのまま実行したら負けた』っていう標本が残る。」
 
「だったら次に疑える。」
 
「入口が悪いのか。」
 
「出口が悪いのか。」
 
「この時期だけ弱いのか。」
 
「買いと売りで差があるのか。」
 
「そもそも手法そのものに優位性がないのか。」
 
ジェニー
「ちゃんと負けたから、ちゃんと疑える?」
 
SFT
「そう。」
 
「俺が正しい負けを欲しがるのは、負けを美化したいからじゃない。」
 
「手法をちゃんと疑いたいからなんだよ。」

間違った負けは、金とデータを失う

感情パイセン
「じゃあさ。ルール破って負けたら?」
 
SFT
「金も失う。」
 
「しかも、『何が悪かったのか』まで分かりにくくなる。」
 
ジェニー
「二重に損?」
 
SFT
「そんな感じ。」
 
「手法が悪かったのか。」
 
「損切りをずらしたのが悪かったのか。」
 
「ロットを上げたのが悪かったのか。」
 
「ナンピンしたのが悪かったのか。」
 
「ごちゃ混ぜになる。」
 
ジーク
「不良品が出たけど、途中で誰かが勝手に機械の設定変えてました、と。」
 
SFT
「そう。」
 
「そしたら製品設計が悪いのか、工程が悪いのか分からんだろ。」
 
感情パイセン
「……じゃあ、ルール破って勝ったら?」
 
SFT
「もっと厄介。」
 
感情パイセン
「勝ってんのに?」
 
SFT
「規格外の工程で、たまたま良品が出来たようなもんだからな。」
 
たしカニ
「確かに、それを新しい標準工程として採用するのは危険ですね。」
 
SFT
「そういうこと。」
 
ジーク
「ルール違反で助かった勝ちは、次の事故を呼ぶ成功体験になるってやつだな。」
 
感情パイセン
「お前ら俺への当たり強くない?」

アイ、そこで止める

アイ
『ただし。』
 
ジェニー
「来た。」
 
アイ
『条件を統一して負ければ、それだけで正しいという意味ではありません。』
 
『優位性のないルールを1000回正確に実行すれば、1000件の高品質な失敗データが残るだけです。』
 
ジェニー
「ダメじゃん。」
 
SFT
「いや、それでいい。」
 
ジェニー
「いいの!?」
 
SFT
「金はよくねえけど。」
 
ジーク
「ギャハハハハ!!」
 
SFT
「でもその時は、やっと言えるだろ。」
 
「『俺が守れなかったから負けた』じゃなくて。」
 
「『これ、手法そのものがダメなんじゃね?』って。」
 
アイ
『執行の欠陥と、手法の欠陥を分離できる。』
 
SFT
「それ。」
 
「ルールを守ること自体が目的じゃない。」
 
「ダメなルールなら捨てればいい。」
 
「その判断をするためにも、まず何をやった結果なのか分かるデータが欲しい。」

平時ではなく、有事

ジェニー
「でも、いつもルール通りにやればいいだけでしょ?」
 
SFT
「平時ならな。」
 
ジェニー
「……あ。」
 
SFT
「連敗した。」
 
「大きく含み損になった。」
 
「損切りした直後に反発した。」
 
「昨日ナンピンして助かった。」
 
「今月マイナスで取り返したい。」
 
「逆に連勝して、自分ならいける気がしてる。」
 
感情パイセン
「はい俺の時間。」
 
SFT
「だからお前に操作盤を触らせたくないんだよ。」
 
感情パイセン
「俺パイセンなのに扱いひどくね?」
 
SFT
「平時の自分に『次は守ります』って約束させるんじゃない。」
 
「有事の自分が出てきても、母集団を壊せないようにする。」
 
「俺ならIFOを先に入れるとか、場中を見ないとか、そういう方へ寄せる。」
 
ジェニー
「感情を消すんじゃなくて?」
 
SFT
「消せるなら苦労しねえよ。」
 
「感情は出る。」
 
「でも、感情が出たことと、注文が変わったことは別。」
 
感情パイセン
「つまり俺は?」
 
SFT
「存在は許可。」
 
感情パイセン
「おっ。」
 
SFT
「工程変更権限は没収。」
 
感情パイセン
「結局それかよ。」

閉店間際

店内が少し静かになった。

チャップリンは、しばらく黙って話を聞いていた。
 
チャップリン
「負けを嫌うのは当然じゃ。」
 
「じゃが、どうせ代金を払うなら、何を買ったのか分かる方がよかろう。」
 
SFT
「標本か。」
 
チャップリン
「うむ。」
 
「同じ金を失っても、何も残らぬ負けと、次の判断材料を残す負けでは少し違う。」
 
ジーク
「で、元品質管理の男は今日もExcelを見る、と。」
 
SFT
「やめろ。」
 
ジーク
「ギャハハハハ!! 相場でQC活動してやがる!!」
 
たしカニ
「確かに、改善活動は継続が重要です。」
 
SFT
「お前まで乗るな。」


本日の貼り紙

正しい負けとは、上手に損することではない。
何に負けたのか、あとで調べられる形で負けること。